大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 平成3年(行ツ)96号 判決

東京都江戸川区平井四丁目七番一三号

上告人

有限会社 進円商会

右代表者代表取締役

島村好子

右訴訟代理人弁護士

岩﨑精孝

東京都江戸川区平井一丁目一六番一一号

被上告人

江戸川税務署長 内川澄男

右指定代理人

小山田才八

右当事者間の東京高等裁判所平成二年(行コ)第一三二号法人税更正処分取消請求事件について、同裁判所が平成三年二月一八日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人岩﨑精孝の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断及び措置は、原判決挙示の証拠関係及び記録に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大堀誠一 裁判官 大内恒夫 裁判官 四ツ谷巌 裁判官 橋元四郎平 裁判官 味村治)

(平成三年(行ツ)第九六号 上告人 有限会社進円商会)

上告代理人岩﨑精孝の上告理由

第一 原判決には、次のとおり判決に影響を及ぼすことが明白な法令違背がある。

一 本件訴訟の争点は、本件係争土地(一)及び(二)(第一審判決並びに原判決の表示をそのまま引用する)上に本件売買契約締結当時島村好子(以下好子という)が措地権を有していたか否かという点である。以下本件係争地(一)及び(二)にそれぞれについて順次述べる。

二 本件係争土地(一)について

1 本件係争土地(一)については、昭和四九年三月二一日好子が林より同土地上の建物を借地権付にて買い受けており、この事実は、甲第二号証及び上告人代表者好子の第一審における原告代表者本人尋問の結果により明らかに認定出来る。これらの事実より本件売買契約締結時に、本件係争土地上に好子が借地権を有していた事実を認定しなかった原判決には法令適用の誤りがあり、これは原判決に影響を及ぼすことが明白である。

2 この点について原判決は、好子が買い受けたとする建物は林の所有名義のまま昭和六一年六月に取り毀されており、右取り毀しは林自らが行っている点を指摘し、さらに甲第二号証の覚書についても、林の方では、「林名義の家屋を好子が買い受ける」との記載部分は好子からそのように書いてくれと頼まれて書いたと述べている旨の記載のある乙第九号証の申述録取書を引用し、また好子と島村延壽(以下延壽という)との間で作成された土地賃貸借契約書(甲第五号証)についても、右契約書に貼付されている印紙が右契約書の作成日付の当時は発行されていなかった点などから、好子が林より昭和四九年に本件係争土地(一)上の建物を借地権付で買い受けたとの真実は認められないとしている。

3 しかし、好子と林との間に昭和四九年三月二一日に合意された内容は、本件係争土地(一)の借地権を同土地上にあった店舗兼共同住宅一棟と共に林から購入し、その際、同建物を契約後引き続き一〇年間は林に使用させ、その間の賃料相当額の総額と右借地権及び建物代金額とを相殺することである。

従って、好子としては借地権付建物を取得した結果、これを賃貸等を行って得られる利益をそのまま一〇年間は林に帰属させ、これをもって対価とすることを承認したのである。そのため、建物の所有名義も変更することなく一〇年後取り毀す際も、林自らの手によって行われたのである。乙第九号証の申述録取書によれば、原判決の指摘する記載部分はあるが覚書を好子より書いてくれと頼まれて林が書いたことは事実であり、そのことをもって好子と林との間で借地権付き建物の売買が行われなかったという理由にすることは出来ないはずである。むしろ、右覚書について林は「これはいつどこで作成したのですか。」という問いに対し、昭和四九年三月二一日に作成した旨答えており、右覚書が真正に作成されたものであることを裏付けている。

また、甲第五号証の土地賃貸借契約書に貼用されている印紙がその作成日付である昭和四九年七月当時発行されていなかったとしても、これをもって、好子と延壽間に土地賃貸借契約が成立していなかったということは出来ないはずである。好子と延壽は親子であり、当時両名間には右土地賃貸借契約書記載のとおりの合意が成立していたのであり、仮りに書面が後日作成されたものであっても、右書面が当時の法律関係を確認するためのものである以上、好子と延壽との間に土地賃貸借契約が存在していたことにはかわりがないはずである。

三 本件係争土地(二)について

1 本件係争土地(二)については、昭和四九年七月三〇日に好子が鳥井實(以下鳥井という)より本件係争土地(二)の借地権と、同土地上の建物とを買い受けたことが証拠上明らかである。この事実を認定しなかった原判決には法令適用の誤りがあり、これは原判決に影響を及ぼすことが明らかである。

2 原判決は、この点について甲第四号証の二(念書)のうち、鳥井が記載した冒頭部分では、買主が「鳥村延壽」と記載されており、鳥井實の証言によれば、鳥井は本件係争土地(二)上の建物を第三者に売却しようと考え、その旨申し入れたところ、地主以外には売却できないと言われたため延壽に売却することとしたものであり、甲第四号証の一の買主欄の記載が好子となっているのは好子の要望によるものであり、鳥井としては、好子が延壽の娘であって当時本件係争土地(二)を管理していたことから、格別の支障も生じないものと考えて買主欄を好子と記載したに過ぎない旨認定している。

3 しかし、好子が鳥井に対し買主を好子としたい旨の申し入れを行い、鳥井もこれに応じていることは争いのない事実である。

好子が延壽の娘であろうと、好子が買主となった以上本件係争土地(二)の借地権及び同土地上の建物が鳥井より好子に移転した事実は認定せざるを得ないはずである。現に本件係争土地(二)上の建物の登記名義は好子名義となっている。

また、本件係争土地(二)の借地権及び同土地上の売買代金は好子が全額負担しているのであり、延壽は全くこれに関与していない。また、右売却後の本件係争土地(二)上の建物は好子が使用しており延壽は一切使用していない。原判決は、鳥井が本件係争土地(二)を地主である延壽に売却しようとした旨の証言にとらわれているものと思われるが、鳥井証人自身も当初そのような話はあったが、最終的には好子の要望により好子が買い受けることとすることを承諾しているのであり、買主は延壽より好子に変更されているのである。

第二 原判決には次のとおり理由不備の違法がある。

一 上告人は、右のとおり本件係争土地(一)及び(二)について、好子が借地権を有していた事実を立証するため、原審において上告人代表者島村好子の尋問を申請する予定であった。

そのため、原審における第一回口頭弁論期日において、控訴状並びに平成三年一月二一日付準備書面(一)を陳述し、次回に上告人代表者島村好子を控訴人代表者本人尋問の申請を行いたい旨口頭で申し出た。

ところが原審では、上告人の右申し出を十分検討もせずに右第一回口頭弁論期日に審理を終結してしまった。

二 上告人は上告人代表者本人の尋問により、上告人主張事実を立証できたにもかかわらず、右証拠調べを行わなかった原判決には審理不尽の違法があり、そのため民事訴訟法第三九五条第一甲六号に定める理由不備の違法がある。

三 よって、原判決は直ちに破棄され原審に差し戻されるべきである。

以上

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例